ペダリングアルゴリズム(4節リンク機構編その4)

本シリーズでは、様々な観点からペダリングの仕組みを理解し、どのようにすればペダリングスキルが向上するかについて考察していく。第4回目は、大腿四頭筋群の使われ方を論文等の実験データで確認し、4節リンク機構の観点からその理由について考察する。

連載の一覧はこちら。

  1. 4節リンク機構編その1(近似モデル)
  2. 4節リンク機構編その2(死点)
  3. 4節リンク機構編その3(データ検証:ハムストリング)
  4. 4節リンク機構編その4(データ検証:大腿四頭筋)← 本記事

※諸注意

この記事は、できるだけ客観的なデータや論文、論理的思考や根拠に基づいて書くように努力していますが、あくまでも私個人の考察・意見です。また、私個人の体験、さらには他人が提唱した仮説を元に構成された考察もあります。もしこの記事を参考にする方は、そのことを十分に承知したうえで自己責任でご活用ください。

前回までの復習

今回の記事も、図1で示したような2次元平面上で考えたペダリング動作を近似した4節リンク機構について考えていく。

図1. ペダリングを模した4節リンク機構とその適用例

前回の記事では、筋電図 (EMG) による筋肉の活動記録から、2関節筋である大腿二頭筋長頭の筋収縮パターンは2種類存在することを示した。上級者のペダリングでは、大腿二頭筋長頭は殿筋群と協同して股関節伸展トルクをかけることができ、3時から6時にかけて股関節伸展トルク由来の力を、接線方向に調整する役割を果たしていると推定された。

今回の記事は、膝関節伸筋群である大腿四頭筋に焦点を当て、図2に再掲する前々回考察した筋肉の使い方とどれくらい一致しているかについて見ていく。

図2. エキセントリック収縮が起きない筋収縮のタイミング(この図は誤解を招く恐れがあるため、いかなる場合も引用禁止とする

EMGデータからみる筋肉のアクティベーションパターン:大腿四頭筋編

大腿直筋の収縮パターンも2種類存在する?

大腿二頭筋長頭は2種類の収縮パターンが存在すると紹介した。大腿二頭筋長頭と同じく2関節筋である大腿直筋も2種類の収縮パターンが存在するのだろうか? まず、前回の記事でも紹介したRyanとGregorの研究 [1] とHug et al. の研究 [2] のEMG計測結果を図3に再掲する。

図3. EMG測定結果(赤枠で囲んだのが大腿直筋の測定結果)

この2つの測定結果は類似している。すなわち、クランク角 -90° (270°) 付近から収縮が始まり、0°から30°付近でピークを迎え、120°付近で活動を終了している。図2との対応関係を見てみると、それぞれ膝関節後死点付近、膝関節最大屈曲位から股関節上死点付近、そして膝関節前死点付近となっている。

しかし、前回紹介したda Silva et al. の研究 [3] では、これとは異なる筋収縮パターンを記録している。図4に、EMG計測結果を [3] より引用(再掲)する。

図4. da Silva et al. による8種類の筋肉におけるEMG測定結果(参考文献 [3] の図3より引用)

こちらのデータでは、大腿直筋のEMGに明確なピークが2つ存在する。クランク角30°付近で一度ピークを迎えているのは図3と同じだが、クランク角300°付近でもう一度ピークを迎えた後、360° (0°) にかけてEMGは減少している。

大腿直筋の活動は一様では無かった!

さて、これら [1, 2, 3] の研究結果を基に、大腿直筋は2種類の収縮パターンが存在すると言っていいのだろうか。実は、これらの測定結果が「筋肉のどの部位でEMGを測定したかによって結果が左右されているのではないか」と想起される論文が存在する。それは、Watanabe et al. の研究 [4] である。

被験者は健康な11人の男性だ。VO2Maxなどの記載は無いため、個々の被験者がどれくらいの身体能力を持っているかは分からない。従って、どれくらいのペダリングスキルを有しているのかも不明であることに注意が必要である。EMGは、ペダルストラップを付けた状態の150W、200W、250W、ペダルストラップを付けない状態の200Wの4種類で計測された。ケイデンスは60rpmである。本記事の読者はほとんどビンディングペダルを使用していると思われるため、今回はペダルストラップを付けた状態のみのデータを考察する。

この研究が他の研究と違うところは、EMGを筋肉のある1点ではなく複数の点で行われていることだ。具体的には、48個の小さな電極を24行2列に配置してEMGを計測している。図5に、模式図を引用する。

図5. Watanabe et al. のEMG測定方法の模式図(参考文献 [4] の図1 Aより引用)

また、2行2列(合計4個)の電極を1チャンネルと定義し、18チャンネルにおける正規化された二乗平均をEMSのデータとしている。図6に、EMG計測結果を [4] より引用する。

図6. Watanabe et al. による大腿直筋のマルチチャネル表面EMG測定結果(参考文献 [4] の図2より引用)

左側がペダルストラップを付けた場合 (150W, 200W, 250W)、右側がペダルストラップ無しの場合 (200W) である。図6を見て分かる通り、同じ筋肉内であってもEMGは一様で無く、各部位によって活性化するタイミングが異なることが分かる。

クランク角0°~90°付近では、大腿直筋の中央部位から膝関節に近い部位にかけてEMGが発生している。この角度域は膝関節最大屈曲位から膝関節前死点に相当するため、膝関節を伸展させることが目的であると考えられる。クランク角180°付近では、どのチャンネルでも活動は見られない。240°~300°にかけては、股関節に近い部位でEMGが発生している。この角度域は、股関節下死点から膝関節後死点に相当するため、股関節を屈曲させることが目的であると考えられる。300°~360°(さらに続けて90°)付近では、再び大腿直筋の中央部位から膝関節に近い部位にかけてEMGが発生している。

このように、トルクを発生させたい関節に近い筋繊維が動員されるようにEMGがコントロールされていることが、実験データから推定できる。

この論文では、負荷の違いによるEMGパターンの差についても検討している。評価には、各クランク角におけるEMSデータの重心を中央活性化部位 (CLA: Central Locus Activation) と定義して用いている。簡単に言えば、あるクランク角においてどのチャンネルの信号が最も強いかを表している。図7に、その結果を引用する。

図7. Watanabe et al. による各クランク角におけるCLAの比較(参考文献 [4] の図4より引用)

上のAが、ペダルストラップを付けた場合 (150W, 200W, 250W)、下のBがペダルストラップ無しの場合 (200W) の結果である。ここで、図7-Aのクランク角90°~135° (Crank phase 3) に注目する。クランク角90°~135°において、150WのCLAに比べて、200W及び250WのCLAは統計的に有意な差 (P<0.025) で膝関節に近い方に位置している。

興味深いことに、クランク角90°~135°と言えば膝関節の前死点が含まれている。4節リンク機構編その2(死点)では、前死点以降の膝関節伸展トルクは全てクランクに対してブレーキの作用しか働かないと説明した。しかし、負荷が高まれば高まるほどより膝関節に近い側のEMSが強くなっており、膝関節伸展トルクを強めようとしていると考えるのが自然であり、モデルと矛盾しているように見える。

原因として1番高そうな理由は、被験者のペダリングスキルが低い(初心者である)ため、250Wという高いパワーを出そうとして力んだ結果、膝関節伸展トルクが強まった可能性が挙げられる。初心者が膝を痛めることはよくあるが、これは膝関節前死点付近で無駄な膝関節トルクが増大した結果である考えられるからだ。

他には、負荷が高くなるほど膝関節に近い側にEMSは移動するものの、実際に発揮されるトルクにさほど大差は無い、もしくは、実は筋繊維の分布の関係でトルクが減少している可能性が挙げられる。

2関節筋の筋収縮パターンは個人差が大きい!

整合性がとれない別の原因として、2関節筋の筋収縮パターンは個人差が大きいことが考えられる。それを示す実験データがHug et al. の研究 [5] に掲載されている。

被験者は、9人の熟練サイクリストである。最大パワーは387±24 W、VO2Maxは64.9±8.2 mL/min/kg、平均8.6±3.2年のサイクリング経験を有しており、実験前のシーズンに平均13,222±4,430kmを走破していることから、被験者は十分な能力を持ったサイクリストと言える。

図8に、Hug et al. の研究 [5] のEMG計測結果を引用する。

図8. Hug et al. による10種類の筋肉におけるEMG測定結果(参考文献 [5] の図2より引用)

この図は、全ての被験者の平均では無く9人の被験者それぞれのEMGを示している。また、他の図と違ってクランクの開始角度が0% = クランク角180°、50% = クランク角0°と異なっていることに注意されたい。

図8を見ると、ヒラメ筋 (SOL) や外側広筋 (VL) といった単関節筋はばらつきが少ないのに比べて、2関節筋の大腿二頭筋長頭 (BF) や大腿直筋 (RF) は非常にばらつきが大きい。変動係数VRは大殿筋 (GMax) が最も低く0.050であるのに対し、大腿二頭筋長頭は0.206、大腿直筋は0.315という高値を示している。

このように、熟練したサイクリストですら筋肉の収縮パターンには思ったより大きいばらつきが存在するようだ。

まとめ

ペダリング動作における筋肉の使われ方を論文等で示された実験データで確認し、2関節筋である大腿直筋の筋収縮パターンを検証した。その結果、大腿直筋の収縮パターンは一様で無く、部位によって収縮のタイミングが異なることが分かった。膝関節後死点から膝関節最大屈曲位に掛けては、主に股関節に近い部分の筋繊維が収縮して引き足に作用し、最大屈曲位から膝関節前死点に掛けては、主に膝関節に近い部分の筋繊維が収縮してペダルの回転に寄与していると考えられる。

図9に、今回引用した論文のデータから総合的に考えた、大腿四頭筋の筋収縮タイミングを示す。

図9. 大腿四頭筋群の筋収縮タイミング

今回、大腿直筋においては明確にパターンを大別することは出来なかった。ただ、図8の大腿直筋のデータを見ると、1名がダブルピークを示している。実は、[3] の論文においても、3名の被験者がダブルピーク、6名の被験者がシングルピークであることが報告されている。もっと被験者数を多くして実験を行えば、もしかしたら特徴的なパターン分別を見いだせるかもしれない。

それにしても、改めて人体システムの奥深さを思い知らされた。筋肉の部位によってこれほどEMSの強度が変わるとは想像していなかった。大腿直筋の収縮パターンが一様で無いなら、大腿二頭筋長頭の収縮パターンも一様で無いことが容易に想像できる。この点においても、さらなる研究が行われることを期待する。

次回は4節リンク機構から離れて、プロ選手の体組成データからペダリングに本当に必要な筋肉は何なのかを検証する。

参考文献

稲田重男, 森田鈞: 大学課程 機構学, オーム社, 1966.

D. A. Neumann: 筋骨格系のキネシオロジー 原著第2版, 医歯薬出版, 2012.

[1] M.M Ryan and R. J. Gregor: EMG Profiles of Lower Extremity Muscles During Cycling at Constant Workload and Cadence, Journal of Electromyography and Kinesiology, Vol. 2, No. 2, pp. 69–80, 1992.

[2] F. Hug, J. M. Drouet, Y. Champoux, A. Couturier, and S. Dorel: Interindividual variability of electromyographic patterns and pedal force profiles in trained cyclists, European Journal of Applied Physiology, Vol. 104, No. 4, pp. 667–678, 2008.

[3] J. C. L. da Silva, O. Tarassova, M. M. Ekblom, E. Andersson, G. Rönquist, and A. Arndt1: Quadriceps and hamstring muscle activity during cycling as measured with intramuscular electromyography, European Journal of Applied Physiology,  Vol. 116, pp. 1807–1817, 2016.

[4] K. Watanabe, M. Kouzaki, T. Moritani: Heterogeneous neuromuscular activation within human rectus femoris muscle during pedaling, Muscle Nerve, Vol. 52, No. 3, pp. 404–411, 2015.

[5] F. Hug, N. A. Turpin, A. Guével, and S. Dorel: Is interindividual variability of EMG patterns in trained cyclists related to different muscle synergies?, Journal of Applied Physiology, Vol. 108, No. 6, pp. 1727–1736, 2010.

最後に

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