「十三峠のタイムの4倍が乗鞍のタイム」という説を検証してみた

2017年8月25日

マウンテンサイクリングin乗鞍2017直前企画。関西でまことしやかに囁かれる法則を、実際のデータで検証してみた。

十三峠とは

概要

十三峠。じゅうさんとうげ。間違っても「じゅうそうとうげ」ではない(←大阪あるある)。関西のヒルクライマーで知らない人はいないであろう、超有名なトレーニングコースだ。距離は4.0kmと短いものの、平均勾配9.2%、最大勾配14.7%というスペックを誇り、難易度は高い。最近では山本元喜選手が全力アタックの動画をアップして話題になった。ちなみに、私のアタック動画はこちら。

コースレコードは、私の知る限り渡辺佑樹選手の13分00秒だ。

「4倍の法則」

さて、関西方面では十三峠にまつわる次のような説が流れている。

十三峠のタイムの4倍が乗鞍のタイムである。

いったい誰が言い出したのかは分からないが、FJTさんのブログその他のブログでも言及されている。確かに、いろんな人の記録を見ていると大体合っている感じはする。

しかし、本当にそうなのだろうか? 今回は、この説が本当に正しいのかどうかデータを用いて検証する。

十三峠と乗鞍エコーラインのタイムを比較する

問題はどんなデータを使うかである。乗鞍ヒルクライムは全リザルトを見ることができず、(2017年8月25日追記:2016年大会に関してはLAP CLIPで確認可能でした)十三峠に至ってはレースすら無い。そこで今回使用するのが、Stravaのセグメントリーダーボードである。実は、StravaはWeb APIが用意されているのでプログラミングさえできれば割と簡単にデータを取得することが可能なのだ。

リーダーボードを使用する理由としては、(非公開アクティビティはリーダーボードに掲載されないので、100%とは言い切れないが)その人の自己ベストタイムである可能性が高く、また、全力でアタックした記録である可能性も十分高いと考えられるからだ。

使用したセグメントは、「十三峠 (Segment id: 1939623)」と「Norikura (Segment id: 853124)」である。

まず、両セグメントからリーダーボードに掲載されている全ユーザーデータを抽出する。次に、IDを用いてデータ同士のペアリングを行う。Strava IDを用いることによって、必ず1対1に対応づけることが可能だ。こうすることにより、2つのセグメントのタイム比較が可能となる。

全データの比較

まず、両セグメントのリーダーボードに掲載されているユーザー129名を抽出し、Strava IDは異なるものの明らかに同一人物であると思われる1ユーザーを除いた128名(男性116名、女性8名、性別設定無し4名)のデータを比較した。図1に、比較結果を示す。

図1. 全ユーザーデータの比較結果(タイム)

x軸が十三峠のタイム、y軸が乗鞍エコーラインのタイムである。切片を0としたときの回帰曲線は、

y = 4.6887 x

となった。このデータセットからは、「十三峠のタイムの約4.7倍が乗鞍のタイムである」という結論が導かれた。しかし、タイムが遅いほどデータにばらつきがあり、回帰式に影響を与えているのは間違いない。

両セグメントで上位20%のランカーを抽出して比較

遅いタイムを排除するため、128名の中から両方のセグメントで上位20%にランキングされているユーザー29名(全員男性)を抽出した。比較結果を図2に示す。

図2. 両セグメントで上位20%にランキングされているユーザーデータの比較結果(タイム)

切片を0としたときの回帰曲線は、

y = 4.0797 x

となり、上位20%のデータに絞ると「十三峠のタイムの4倍が乗鞍のタイムである」という説をある程度支持する検証結果となった。

両セグメントで上位50%のランカーを抽出して比較

もう少しデータの範囲を広げ、128名の中から両方のセグメントで上位50%にランキングされているユーザー59名(内、女性3名)を抽出した。比較結果を図3に示す。

図3. 両セグメントで上位50%にランキングされているユーザーデータの比較結果(タイム)

切片を0としたときの回帰曲線は、

y = 4.1152 x

となり、上位50%のデータでは約4.12倍という結果になった。上位20%のデータでは約4.08倍であり、十三峠のタイム1分につき2.4秒の差となる。この差が大きいのか小さいのか、私には判断できない……。

十三峠と乗鞍エコーラインのパワーを比較する

前のセクションではタイムを比較したが、このセクションではパワーを比較する。予め断っておくが、十三峠と乗鞍では要求されるパワーレンジが全く違う。ただ単に相関関係を示しているだけなので、あくまで参考程度に見ていただきたい。まぁ、前のセクションも単に相関関係を示しているというのは同じ話なんだけどね。

128名の内、十三峠と乗鞍エコーラインの両方でパワーが記録されている114名のデータを用いたグラフを図4に示す。

図4. 全ユーザーデータの比較結果(パワー)

縦軸が乗鞍エコーラインで記録されたパワー、横軸が十三峠で記録されたパワーである。図4より、切片を0としたときの回帰曲線は、

P_{n} = 0.7779 P_{j}

となった。ここで、P_{n}は乗鞍エコーラインの推定パワー、P_{j}は十三峠のパワー(入力)である。次に、114名の中から両セグメントで上位20%のランカーである29名を抽出して比較した。その結果を図5に示す。

図5. 両セグメントで上位20%にランキングされているユーザーデータの比較結果(パワー)

切片を0としたときの回帰曲線は、

P_{n} = 0.8753 P_{j}

となった。最後に、114名の中から両セグメントで上位50%のランカーである59名を抽出して比較した。その結果を図6に示す。

図6. 両セグメントで上位50%にランキングされているユーザーデータの比較結果(パワー)

切片を0としたときの回帰曲線は、

P_{n} = 0.8277 P_{j}

となった。やはり、上位陣に絞れば絞るほど係数は1に近づいていく。まぁ、当然と言えば当然だが。

まとめ

まことしやかにささやかれる「乗鞍のタイム、十三峠4倍説」をStravaリーダーボードのデータを用いて検証した。Stravaリーダーボードに載っているデータが全て全力アタックの結果である訳ではないのでかなりブレがあると思われるが、上位陣に限って言えば大体あってると言ってよい事が分かった。ランキング上位20%で4.08倍、ランキング上位50%で4.12倍、全体で4.69倍であることから、乗鞍のターゲットタイムを「十三峠ベストタイムの4倍」と設定することは、非常に良い目標設定になると思われる。是非参考にしていただきたい。

次回は、Mt.富士ヒルクライムと乗鞍エコーラインとの間にどのような相関関係があるか検証する。

最後に

何か間違い等がありましたら、Blogのコメント、Twitterなどでお知らせください。よろしくお願いします。