赤血球数の低下と持久力向上には関係がある

赤血球の低下と持久力の向上には相関関係があるらしい。今回は、陸上長距離の学生選手を対象にした研究を紹介する。

血液検査の結果と考察の記事で、私の赤血球数が低く、平均赤血球容積 (MCV) の値が大きいことを紹介した。MCVとは、赤血球1個の平均的容積、すなわち赤血球の大きさの指標となるものだ。

持久力が必要な競技は、赤血球数が多いほうが有利と言われている。血液ドーピングは、まさに赤血球数を増やすことが目的で行われる。しかし今回紹介する論文は、赤血球数の低下はむしろ肯定的にとらえられている。いったいどういうことか。

元ネタ

岩垣 丞恒, 新居 利広, 山村 雅一, 佐藤 大貴: 学生長距離選手の赤血球指標の縦断的変化, 東海大学スポーツ医科学雑誌, Vol. 11, pp. 15–21, 1999.

1999年とやや古い。対象も学生の長距離陸上選手である。

要約

一般男子学生15人と、男子学生長距離選手9人を4年間にわたって追跡し、比較分析している。

一般学生の赤血球数は、4年間変動がなかった。一方、長距離選手は3年目あたりから赤血球数が減少し、統計的にも有意な差が生じた。また、5000m走の記録更新と赤血球数の減少には関係性が認められた。

赤血球数が低下すると同時に、平均赤血球容積 (MCV) および平均赤血球血色素量 (MCH) の値が増大した。すなわち、両者にはトレードオフの関係がある。また、赤血球数が低下すると、血液の粘性も低下した。こちらは、両者に正の相関があることが分かった。

赤血球数に対するヘモグロビン濃度は、一般学生より長距離選手の方が有意に高かった。

岩垣らは、赤血球数の低下と記録更新が関係している原因を血液粘性が低下したことによって心肺への負担が軽くなったため、と分析している。また、これらのトレードオフの関係が崩れている場合は、運動性貧血になる可能性があると指摘している。

考察

簡単に言えば、持久力トレーニングすれば、赤血球数が低下して血液がサラサラになるらしい。単に赤血球数が多ければ良い、と言うわけではなさそうだ。血液がサラサラになって心臓の負担を減らすことで持久力が上がるという説明は、もっともらしい。

血液検査の結果と考察の記事では、MCHに関して「この数字はほとんど変動していない」と書いたが、確かに値は上昇している。MCV、MCHの計算は、分母が赤血球数なので当たり前といえば当たり前かもしれない。

blood-test-comparison

赤血球数の変化と血液の粘性に強い正の相関があるという結果は、とても興味深い。私の血液の粘性に関するデータはないが、これを見る限りサラサラである可能性が高い。うーん、計ってみたいw

血液がサラサラな状態で赤血球数を増やせれば、さらに持久力が上がるのだろうか。そんなことは可能なのだろうか? 是非、トップレベルの自転車選手における血液組成の変化を見てみたいものだ。

まとめ

赤血球数の低下、言い換えると血液がサラサラになることと持久力の向上に関係があることが分かった。血液をサラサラにして持久力を上げよう。

なお論文も指摘するように、赤血球数が低下してもMCVなどの数値に変化が見られない場合は単なる貧血と思われるので注意しよう。

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6 Responses

  1. 夢橋 より:

    以前ピノの記事にコメントした者です。ピノ、ロンバルディアで勝ちましたね!

    私は全然違う理由で、採血をした際に出てくれていたので関連記事を探してここにたどり着きました(笑)
    体調の問題でここ一年まともな強度で自転車に乗っておらず、持久力・筋力共に低下していました。

    まず、こんな感じでした。

    RBC (赤血球数)     5.56  →ここでいう556でしょうかね?
    Hb (ヘモグロビン濃度) 16.6 g/dl 
    Ht (ヘマトクリット)  47.4%
    MCV (赤血球容積)    85.3 fl  
    MCH (血色素量)     29.9 pg  
    MCHC(平均濃度)    35.0%  

    これ見ると、ハナケンさんの記事の内容と反対方向に一致しているような気がしますね!
    『VO2maxのお話④「血液とヘモグロビン」』
    というタイトルで、他の方の記事でも同じようなことが指摘されていました。

    ここで質問というか、疑問が2つあります。

    ①タイラーハミルトン著の「シークレットレース」(読んでいなかったらごめんなさい)においてヘマトクリットのが出ており、高い方が良い、と再三言われています。血液検査の考察の記事でハナケンさんが示した様な、持久力が上がってヘマトクリット値が下がる傾向もある。一体どういうことなんでしょうか?(笑)
    自分なりに考えられるのは、条件の違いですかね(どちらのデータ・考察も正しいと仮定して)
    ・5~6時間とかの長丁場という条件になると何か変わるのか?

    ・それとも勝負所で粘れるための力としての指標なのか?
    とか。

    そういう部分に関しては本の中では曖昧で”とりあえず高いとええで!”という感じでした。
    クラシックなどのワンデーレースより、長く続くステージレースで威力を発揮し、

    「辛い所でもうひと踏ん張りできるようになり、それは決定的な差になる」
    という風な感じの記述も見受けられます。

    勿論ヘマトクリット値等が低くて強い選手がいるのは当然なのでしょうが、ドーピング(主にEPO)の歴史から見ると高い方が良いという印象を受けます・・・。(パンターニ、ランスアームストロング然り)

    ②最大酸素摂取量とヘマトクリット値などの間に相関関係はあるかどうか、です。
    vo2maxは遺伝、心筋の発達、毛細血管の発達など様々な要素が関わっていることは理解していますが、ハナケンさんはどのように思われますか?

    うまく構成が出来ず、読みづらくて申し訳ないのですが、答えて頂けたらと思います。

    • HANAKEN より:

      夢橋さん、こんにちは。コメントありがとうございます。

      いやー、ピノー勝ちましたねw
      コンスタントに成績は残すもののビッグレースでは勝ち切れてなかったですが、これでフルームやニバリのようなトップ中のトップに仲間入りですね!

      質問の内容がとても興味深かったので、いろいろ考えました。長文になりますが現時点での考察を述べていきます。

      まず、①に関してです。
      シークレットレースは読んだことが無いのですが、議論に必要な情報は揃ってますのでお答えしたいと思います。
      持久力にまつわる指標はいくつも存在しますが、ここでは全身に輸送される酸素量を考えることにします。
      なぜなら、体内に循環する酸素量が増えればそれだけ使用できる酸素量が増えるので、持久力の向上が期待できるからです。
      これに関する指標は酸素供給量 (DO2) によって計算することができ、「DO2 = 心拍出量 × 動脈血酸素含有量」で定義されます。
      さらに詳しく見てみると、心拍出量は「心拍数 × 1回拍出量」、動脈血酸素含有量は「1.34 × ヘモグロビン濃度 × 動脈血酸素飽和度 + 0.0031 × 酸素分圧」で計算することが出来ます。
      ここで、酸素分圧の項は数字が小さいため無視できるものとすると、DO2を上げる因子は「心拍数」、「1回拍出量」、「ヘモグロビン濃度」、及び「動脈血酸素飽和度」であることが分かります。

      さて、ここから本題に入ります。
      まず、「ヘマトクリットが高いほど良い」から考えます。
      ヘマトクリットは血液中に占める赤血球の体積の割合を示す数値であり、基本的には「ヘマトクリットが高い≒赤血球数が多い≒ヘモグロビン濃度が高い」というロジックが成り立ちます。
      すなわち、ヘマトクリットが高ければヘモグロビン濃度も高く、DO2も高まります

      次に、「持久力が上がってヘマトクリットが下がる傾向もある」について考えます。
      単純に考えれば、上のロジックに従って「ヘマトクリットが低い≒赤血球数が少ない≒ヘモグロビン濃度が低い」となり、DO2は低くなるように見えます。
      しかし、赤血球数の低下は血液の粘度を下げ、心臓の1回拍出量は大きくなります。
      従って、ヘモグロビン濃度の低下による影響よりも1回拍出量の増大の影響が上回れば、結果的にDO2は高くなります
      例えば、ヘモグロビン濃度が20%低下しても1回拍出量が40%増加すれば、DO2は12% ( (1.00 – 0.20) * 1.40 – 1.00) * 100 = 12) 向上するわけです。

      以上の考察より、「ヘマトクリットが高いほど良い」と「持久力が上がってヘマトクリットが下がる傾向もある」は、DO2を上げるという観点においては同じ効果を発揮することが言えます。
      DO2を上げるためにどうするか?という方法論が違っていたと言うことですね。
      この両者にトレードオフの関係(ヘマトクリット上昇≒血液の粘性増大、ヘマトクリット低下≒血液の粘性低下)が存在するため、このような疑問を持たれたのだと思います。

      「辛い所でもうひと踏ん張りできるようになり、それは決定的な差になる」という記述に関しても興味深かったので、いろいろ調べました。
      面白い論文を見つけましたので、これは別エントリーでお答えしたいと思います。

      ②に関してですが、最大酸素摂取量とヘマトクリット(≒ヘモグロビン濃度)などの間には強い相関関係があります。
      スポーツ選手の貧血が問題視されるのは、「貧血≒ヘマトクリットが低い≒赤血球数が少ない≒ヘモグロビン濃度が低い」となり、DO2や最大酸素摂取量が低くなるからです。

      長文になりましたが、この回答で疑問は解決したでしょうか。
      分からないことがあればまた気軽にコメントしてください。
      よろしくお願いします。

      • 夢橋 より:

        詳しい回答ありがとうございます。
        コメントをした後で、もう少し調べ直して疑問に思った部分がありました。
        専門用語の定義などは正直全く分からないですし、ネットで調べた知識な上に、組み立て方が下手なのでどこかで矛盾もある気がしますが、、。

        ①そもそも酸素供給とは、ヘモグロビンの「絶対量」か「濃度(相対量?)」のどちらで決まるのか?

        私は絶対量だと思うのですが。
        血液って、赤血球・白血球・血小板・血漿などで構成されていると思うのですが、ヘマトクリット値ってあくまで相対的な数値ですよね?血液の絶対量が変動したらヘマトクリット値のとらえ方が変わると思うんです。

        ・ヘモグロビンが多い場合(濃度?それとも絶対量?)
        ・血液粘性が低く、拍出量が増える場合

        が酸素供給を高める要因なんですよね。

        ①を絶対量だと仮定した場合、雑な例え話なのですが

        Aさん 血液量…中量(150) ヘモグロビン…中(50) →ヘマトクリット 33.33…%
        Bさん 血液量…多量(200) ヘモグロビン…中(50) →ヘマトクリット 25%

        となり、
        ② ヘモグロビン量が同じなのに、ヘマトクリット値に差が出るではないか?

        自分でもアホかと思うほど短絡的な発想ですが、赤血球の容積、赤血球ヘモグロビン濃度が保たれたまま、血液全体の量が増えるという状況が起こった場合、
        ハナケンさんに示していただいた上記二つの要因を同時に満たし、酸素供給が向上すると思ったのですが、どうでしょうか?

        ドーピングに関してもヘマトクリット値が50%と規定されても、血液全体の量が多ければ酸素を供給するヘモグロビンが多くてもヘマトクリット値はそんなに大きくならない。
        だからこそ、ドーピングは公平では無い、と言えるのではないでしょうか?
        先のAさんBさんで言えば、AさんがHtを50%まで向上させようと思ったらヘモグロビンは75までしか入れられないが、Bさんは100まで入れることが出来る。
        この時他の条件が同じなら粘性による拍出量は両者同じで、ヘモグロビン絶対量が多いBさんの方が有利になるのではないでしょうか?

        あくまでこれは「ヘモグロビンの絶対量が酸素供給能力に影響する」という前提に基づいています。相対的な濃度が重要ならばこれは全て成り立ちません(笑)

        ということは赤血球の低下と同時に血漿量も増えたりしてるんではないかなぁ?
        とも思う訳です、、、。ランニングでは足の裏の毛細血管が破壊されて赤血球が減るとか?これは自転車には余り関係なさそうですが。でも関係なさそうなのに、似たような血液の反応があるのは不思議です。

        抜けている要素や矛盾などを指摘して頂けると助かります。

        • HANAKEN より:

          夢橋さん、コメントありがとうございます。

          ①ですが、夢橋さんのご想像通り、酸素供給量 (DO2) はヘモグロビンの絶対量に比例すると言われています。
          DO2の式に血液量が出てこないのは、DO2が血液の絶対量ではなく血液を送り出す能力に依存しているからです。
          いくら血液量が多くても、それを送り出す能力が低ければ意味がないですからね。
          実際、DO2の単位はは1分間当たりの酸素量 (L/min) です (DO2 [L/min] = 心拍数 [1/min] × 1回拍出量 [L] × 1.34 [L/g] × ヘモグロビン濃度 [g/L] × 動脈血酸素飽和度 [- (%)]) 。

          夢橋さんの挙げた例はかなり極端だとは思いますが、②ヘモグロビン量が同じなのにヘマトクリットに差が出るということは普通に起こり得ます。
          この部分は相当に個人差があるのではないでしょうか。

          「赤血球の容積、赤血球ヘモグロビン濃度が保たれたまま、血液全体の量が増えるという状況が起こった場合、酸素供給が向上するのではないか」については、個人的には起こり得ると思います。
          血液量が増えると血圧が上昇します。
          血圧はざっくり言うと「1回拍出量」と「末梢血管抵抗(血液の粘度など)」によって決まるため、末梢血管抵抗が同じであると仮定すると、1回拍出量が増えてDO2も増えると考えられます。
          ……しかし、血液量が増えると血圧だけでなく体の様々な部分に影響を与えるので、上記のような状況が実際に起こるかどうかは疑問ですね。
          私が調べた限り、血圧と持久力との関係を調べた研究は見つかりませんでした。
          こういう研究があれば面白いと思います。良いリサーチクエスチョンですね。
          もしどなたかこういった研究をご存知であれば、是非教えてください。

          ドーピングの基準に関してですが、私の調べた範囲ではヘマトクリットだけでなくヘモグロビン濃度にも基準があるようです(男:ヘモグロビン濃度17g/dl未満、ヘマトクリット50%未満、女:ヘモグロビン濃度16.0g/dl未満、ヘマトクリット547%未満)。
          他にも%網状赤血球も調べるので、現在は単にヘマトクリットを減らしただけではドーピングを隠し通すのは難しいのが現状のようです。

          「似たような血液の反応があるのは不思議」に関しても触れておきます。
          実は前回のコメント返信で書こうかなと思ったのですが、長文になったので飛ばしていました。
          人間は、エネルギー消費を最小化するように適応すると言われており、DO2の増減因子の中でエネルギー消費が伴うものは「1回拍出量」です。
          なぜなら、血液を送り出すためには心臓(心筋)がエネルギーを消費するからです。
          ヘモグロビン濃度で調整せず1回拍出量で適応するのは、このためだと考えられます。

          この辺全部まとめてきっちり参考文献を示して新しいエントリーを書いた方がいいように思ってきましたw
          なかなか興味深いご質問、ありがとうございます。

  2. 初めまして。
    HANKENさんと比べると成績は比べ物に
    なりませんが、ヒルクライムレースを趣味に
    しているものです。
    昨年は大台ケ原で激坂区間と総合優勝の
    ジャージを着ていたのを目の当たりにしたのが
    印象に残っています。

    半分趣味的な所はありますが年に1回は献血しており、
    血液検査の結果とヒルクライムのような持久力も
    必要とされる競技の関連性について何の知見もなかった
    ので、この投稿を読んで持久力が上がっている
    ことが確認できました。
    ありがとうございました。

    私のブログの記事にHANAKENさんのこの投稿への
    リンクを貼らせて頂きました。
    http://38817311.at.webry.info/201602/article_16.html

    今後もこの投稿のような考察に関するものを
    楽しみにしています。

    • HANAKEN より:

      ペガサスウイングさん、こんにちは。

      コメントありがとうございます。とても興味深く記事を読ませていただきました。実は、以前からペガサスウイングさんのブログは拝見しておりまして、「1年ぶりの献血~」の記事を読んで、良いデータを蓄積されてるなぁと密かに思ってましたw

      菰野、伊吹山では会う機会もあるかと思います。今後もよろしくお願いします。

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