怪我を押して練習しても何の得も無い
箱根駅伝で活躍し、「山の神」と呼ばれた柏原竜二選手が引退を発表した。度重なる故障が原因らしい。しかし、関連記事を読んでいて私が気になったのは、同じく今年引退した竹澤健介選手の方だった。
竹澤選手のインタビュー記事に思うこと
その記事とは、THE PAGEが配信した「山の神の早すぎる引退。箱根駅伝は選手を潰すのか!?」。竹澤選手と言えば、箱根で活躍し北京五輪にも出場した日本トップクラスの長距離ランナーだったはず。それが何故こんなにも早く引退に追い込まれたのか。記事には、以下のような記述があった。
4年ほど前からは「左足のグラつき」に悩まされて、最後はジョッグもまともにできない状態だった。
私は直感した。これ、ジストニアだろ……。竹澤選手の名前でググったら、次のような記事が簡単に見つかった。ちょっと長いが、「箱根から世界を走った「早稲田の竹澤健介」が、初めて語る引退の真相」から一部分を引用する。
近年、竹澤が苦しんでいたのは、「左足のグラつき」だ。傍目からは異変が見えづらいその症状を、周囲に理解してもらうのは「簡単じゃない」と語る。
「左足がどこにいくのかわからないんです。自分の足なんですけど、着地したい場所に着くことができないという症状が、4年ほど前から続いていました。痛みに関しては受け入れていたんですけど、足の不安定さはどうすることもできなくて。突然ガクッと内側に落ちてしまうこともありました。シューズ内にインソールを入れて、足首をテーピングで補強して、それから体幹を鍛えるなど、あきらめずにいろいろと試したんですけど……」
しかし、左足の症状は改善されず、それどころか、ジョギングもまともにできなくなるほどに悪化していく。
「着地して地面を蹴った足がどこにいくのかもわからないので、練習中に止まってしまうこともありました。それに、ずっと足に意識がいっているので、集中力がもたないんですよ。30分、40分くらい走るだけで、脳みそが疲れちゃうんです」
左足のケガとの戦いは日常生活にまで及んだ。朝起きて、足を1歩踏み出す際にも、左足に神経を使わねばならず、最終目標ともいうべき「マラソン」のスタートラインに立つことすらできなかった。(引用終わり)
ペダリングジストニア(リハビリ戦略編)の中で触れたように、私もジストニア発症当初「どのようなペダリングをすればいいか分からない」という感覚に陥った。また、右脚の足裏感覚がほとんど感じられなかった。不随意運動がだいぶ治まった現在においても、右脚と左脚で足裏感覚が微妙に違う。
他にも、ジストニアの闘病記をFacebookに綴った堂上 靖史さんの記事に、次のような記述がある。
仕事への影響が嫌で、何とかふつうに歩けるように振る舞ってはいましたが、歩こうとするとどうしても膝から下の筋肉の一部が強張り、力の抜きかたがわからないので、四苦八苦するうちに歩き方が分からなくなり、諦めてタクシーに乗ることもありましたが、凹みました。
さらに、現在進行形で懸命にリハビリを行っているけたるっちさんのブログにも、このような記述がある。
ペダリングがおかしくなった当初、ペダルをどこで踏んでいるかわからない、右足がどこに位置しているか分からないという症状に襲われ、足裏または足関節の感覚障害を先ず疑った。
共通点が非常に多く、驚かされるばかりだ。
竹澤選手は、怪我を押して練習を続けた結果様々な部位を痛め、最後にはジストニア様な症状(私はジストニアだと思うけど)を来して引退に追い込まれた。私も途中まではほとんど同じ経過を辿っていた。ジストニアであるという認識無くあのまま自転車を続けていたら、私も同じような状況になっていただろうと思うと寒気がする。
長期的な視点で考えると、怪我を押して練習することは本当に何の得も無く、ジストニア発症のリスクを確実に高める。我慢を強いられるが、まずは怪我を回復させることが最優先であるということを強く主張したい。
まとめ
竹澤選手や私を含めたその他の事例から、怪我の回復をおろそかにして練習を続けるとジストニアが発症する危険性が増すことを指摘した。トップレベルの選手ほどトレーニングを休みたがらないのは分かっている。しかし、近視眼的にならず、将来のためにあえて1歩後退する勇気も必要では無いだろうか。
アイキャッチ画像 by akiwitz (2008 Summer Olympics – Men’s 5000m Round 1 – Heat 3 1 TAKEZAWA Kensuke 2 AL-OUTAIBI Moukheld 3 LAGAT Bernard 4 ENNAJI EL IDRISSI Abdelaziz 5 BEKELE Kenenisa 6 C’KURUI James Kwalia 7 LONGOSIWA Thomas Pkemei 9 GARCIA Alberto 10 MOTTRAM Craig)
ディスカッション
コメント一覧
怪我を押してのトレーニングは特にならない、のではなく、やり方が間違っているのです。
間違ったトレーニングをしているからジストニアになるのであって、ジストニアになることを仕方がないとか、運が悪いというのは自分の体に対する冒涜です。
無理なトレーニングをしなければならなくなるほど追い込まれているのは、その人の限界がきたということです。
プロなら分かりますが、アマチュアがそこまでトレーニングするのは果たして自分に必要なのか考えて見るのが良いでしょう。なぜそこまで自分を追い込んでしまうのか、何が満たされないのか。
不随意筋の運動は、体の調節機能を担っているのですよ。その動きを無理に押さえつけているとますます体が言うことを聞かなくなります。
パワーとか距離とか、ケイデンスとか、自分の体の外にある数値を目指してそこに体を最適化しようとしても、その人の体の限界が来たら体が調節しようとして不随意の動きを発するのです。
パワーよりハートレートを重視するのが良いでしょう。
自分が一番調子の良いハートレートを追い求める。ハートレートを基準にトレーニングを組み立て直す。
時間はかかるでしょうが、確実に強くなります。
若い時は無理がきくのですよ。あなたは若いから無茶をしてその限界がきたのだと思います。
無茶をして鍛えても、すぐにその効果はなくなります。体験したでしょう。
無理のない心拍、無理のない呼吸、これを重視しましょう。
心拍数や呼吸数など体からの数値を重視してください。
それを保った上で少しずつパワーを上げていくのです。
パワーなんて無理すればいくらでも出るのですよ。心拍を上げ、呼吸に負担をかければ。でもパワー出しごっこをしているわけではないのでしょう?
心拍や呼吸に無理がかからずに、パワーを出せるように導くのが練習です。
ジストニアになったのは、体からのメッセージですよ。
やり方が間違っていると。
それでも燃え尽きたい、と言うのなら止めはしませんが。
コンタドールがなぜ心拍を重視するのか、なぜいつまでも現役でいられるのか。
アンディシュレクがなぜ若すぎる引退をしたのか、なぜ彼は燃え尽きたのか。
考えてみるのも良いのじゃないでしょうか。
yagiさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
必要以上に自分を追い込んでしまったのも、ジストニアになってしまった原因の1つだと考えています。
ご意見、参考にさせていただきます。
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