ペダリングジストニア(データ解析編)

2017年10月27日

ペダリング時の動作特異性ジストニアに関して、複数回のシリーズに分けてお送りする。シリーズ2回目は、ペダリングモニターのベクトルデータを用いてペダリングスキルの時系列変化について考える。

連載の一覧はこちら。

  1. 原因編
  2. データ解析編
  3. 発生機序編
  4. リハビリ戦略編
  5. トレーニング編

※諸注意

この記事は、できるだけ客観的なデータや論文に基づいて書くように努力していますが、かなり広範囲にわたって私個人の体験と意見、さらには他人が提唱した仮説を元に構成されています。もしこの記事を参考にする方は、そのことを十分に承知したうえで自己責任でご活用ください。

足首の運動に着目した自転車ペダリングの効率分析

本論へ入る前に紹介したい研究がある。日本機械学会 シンポジウム: スポーツ工学・ヒューマンダイナミクス2016で発表された「足首の運動に着目した自転車ペダリングの効率分析」である。なお、論文本体は無料では入手不可能で、ソースは発表元である筑波大学の松田昭博先生のホームページに掲載された口頭発表で使用されたスライドのpdfである。また、この論文は査読不要のシンポジウムで発表されているため、研究の信頼度は低い。他人のチェックを受けていない(と思われる)ため、内容の解釈には慎重な検討を要する。

仮説:足首の角度とクランク法線方向の力の間で線形(直線)近似が可能と主張

この研究では、足首の角度がペダリング効率に与える影響について実験を行い考察している。まず、1人の被験者でパワー (200, 250, 300W) とケイデンス (80, 90, 100rpm) の条件を変えて9通りの実験を行った。その結果、パワーやケイデンスに関係なく、足首角度とクランク法線方向の力はほぼ線形の関係を示したと主張している(スライド9ページ目)。そこで、足首の角度を推定するための近似式を以下のように定義する。

ここで、 は足首の角度、 はクランク法線方向の力、 及び は被験者ごとに決定される定数である。また、その他5名の被験者は200W, 90rpmの条件で実験を行い、いずれの被験者も足首角度とクランク法線方向の力との間に線形性が確認できたとしている(スライド10ページ及び11ページ目)。

この式を以下のように変形すると、

となり、「法線方向の力が大きければ大きいほど足首の角度が大きい」と解釈できる。もう少し拡大解釈すると、「法線方向の力の変動が大きければ大きいほど足首の角度の変動も大きい」となる。

ペダリングベクトルの時系列変化

ここからは上述の仮説が正しい仮定して、実際に私のデータを見ていくことにする。

2016年2月6日

最初に、ペダリングモニター購入直後に採った記念すべき第1号データを図1に示す。

図1. 勝尾寺アタック時のペダリングデータ(2016年2月6日)

2016年2月6日に、西田橋~勝尾寺へアタックしたときのラップデータだ。左右バランスがあまりよろしくないが、ペダリングのベクトルは両脚で揃っている。

2016年5月22日

次は、ハルヒル2016のレースデータを図2に示す。

図2. ハルヒル2016のペダリングデータ(2016年5月22日)

右脚に関して、120°から180°にかけて法線方向の力が強まっていることが確認できる。つまり、右足首の角度変化が大きい→足首からも力を振り絞ろうとしていたことがうかがえる。この時点で、右のつま先が左に比べて少し下がっているなぁという認識はあった。

このレースの2日後、両脚に原因不明の痛みが発生し、2週間近く自転車に乗れない悶々とした日々を過ごす。

2016年6月12日

次の図3は、両脚の痛みが治まった直後に参加したMt.富士ヒルクライムのレースデータである。

図3. 第13回Mt.富士ヒルクライムのペダリングデータ(2016年6月12日)

パワーは低いが、ペダリングのベクトル的にはハルヒルのデータと大差は無い。

2016年8月28日

Mt.富士ヒルクライムの挫折から一念発起して猛トレーニングを行った結果が、図4に示す乗鞍ヒルクライム2016のレースデータだ。

図4. 全日本マウンテンサイクリングin乗鞍2016のペダリングデータ(2016年8月28日)

いよいよペダリングベクトルの左右差が顕著になってきた。以前は120°から180°だけだった法線方向の力の左右差が、0°から90°にかけても少しずつ現れ始めていることが分かる。つまり、先述の仮説が正しいとすれば、右足首の利用率がさらに上がっていると言うことになる。

実は、レース後ローラーでダウンしているときに「ずいぶん左右でペダリングが違うな」と兄貴から指摘されていた。私は「左右の脚は別の生き物だと割り切っているので、あまり気にしていない」と答えた記憶がある。このときに兄貴の指摘をもう少し真に受けていれば良かったと後悔しているが、後の祭りだ。

2016年9月25日

2016年最大の目標であった赤城山ヒルクライム2016だが、図5を見ればこの時点でもうペダリングはぼろぼろだったことが分かるだろう。

図5. まえばし赤城山ヒルクライム2016のペダリングデータ(2016年9月25日)

右脚における2時方向のベクトルが明らかにおかしい。3時以降のベクトルの大きさも、左に比べて右はずいぶん長い。これは、足首を伸ばす動作がさらに強くなっていることを示唆している。左下のトルク曲線も左右のずれが顕著だ。こんな状態でよく優勝できたな……。

10月上旬にチームメイトと小浜へ行ったとき、某氏から「右脚がつまさきだけでペダリングしているように見える」と指摘された。このことは私自身も分かっていて「調子が悪いとつま先が下がるんです」と答えており、流石に何かがおかしいと感じてはいた。しかし、何が原因なのかはさっぱり分かっていなかった。

2016年12月30日

結局、10月を過ぎた頃からジストニアの症状が現れ始めどんどん悪化。年末にはこんな有様に。

図6. ローラートレーニングにおけるペダリングデータ(2016年12月30日)

法線方向の力の左右差を見比べると、いかに右足首が暴れているかが分かるだろう。

ペダリング効率の時系列変化

法線方向の力が増せば、当然ペダリング効率は下がる。そこで、ジストニアを引き起こす遠因となった時期を探り出すべく、ペダリング効率の時系列変化を調べてみた。図7にその結果を示す。

図7. ペダリング効率の時系列変化

両脚を故障した5月末を境にグラフの色を変えてある。また、2本の近似曲線はそれぞれ5月30日以降のデータのみを使って計算している。

3月上旬までは左右差がほとんど無いが、それ以降から多少左右差が発生している。右足首を使って踏み込む癖は3月くらいからすでについていたようだ。ただ、両脚のペダリング効率は同じように変化しており、左右差はある一定の間に収まっている。一方で、両脚に激痛が発生して以降は左右差がどんどん拡大している。ジストニアを引き起こす遠因となった体のゆがみは、ハルヒル直後の激痛によって引き起こされたと考えて間違いなさそうだ。

まとめ

ペダリングモニターのベクトルデータを示し、左右差及び法線方向の力に関して考察を行った。足首の動く角度が大きいほど法線方向の力は大きくなる傾向が見られ、「法線方向の力の変動が大きければ大きいほど足首の角度の変動も大きい」という仮定はもっともらしい。また、ジストニアを引き起こす遠因となった体のゆがみは5月末に発生していたことがデータから示唆された。

ペダリング効率を手っ取り早く上げるためには「足首を極力動かさない」ペダリング=アンクリングしないペダリングの習得が近道であると思われる。逆に、足首を利用してパワーを増大させることもできるので、場面によって使い分けるのが良いだろう。

今回紹介した研究は、非熟練者や熟練者の比較が無い、そもそも被験者数が少ない、線形近似には無理があるのでは? 等突っ込みどころが満載ではある。ただ、恐らくこの研究は始まったばかりであるため仕方ないだろう。足首の関節角度に注目した点はおもしろく、今後の研究発展が期待される。

次回は、ペダリングスキルの変遷とジストニアの発生機序について考察する。

最後に

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