[書評] ベース・ビルディング・フォー・サイクリストを読んでみた
「ベース・ビルディング・フォー・サイクリスト」を読了したので、内容について感じたことを述べたいと思う。
この本を読むべき対象者は?
ベース・ビルディング・フォー・サイクリスト(以下、BBC)の対象読者は、自転車競技に興味がありとりあえずがむしゃらに走っている初級者や、中級~上級者ではあるが実力が伸び悩んでいる人だ。自転車を買ったばかりの初心者サイクリストには必要が無い(しばらくの間は、乗りさえすれば速く走れるようになるため)。また、本で紹介されている体力テストはパワーメーターを使用しているため、パワーメーターを所持していることが推奨される。
どれを最初に読むべきか?
自転車競技トレーニングに関する本はたくさんあるが、BBC、
CTBは、自転車競技トレーニングを網羅的に扱ったトレーニング指南書である。網羅的に扱っているが故に記載事項が多く、知識のない不慣れな初級者にとっては読み解きづらいかもしれない。PTBは、パワーメーターの扱い方や分析方法を解説した技術書である。パワーメーターをより深く効率的に使い人に向けて書かれているため、はっきり言ってマニア向けの内容だ。
一方、BBCは「自転車競技選手がトレーニングの最初期に何をすべきか」というこの1点だけに内容を絞った書籍である。つまり、トレーニングを始める初級者にとって最適な内容となっている。トレーニングの基礎知識を丁寧に説明してくれているので、初級者でも読みやすいと思う。
BBC唯一無二のキーワード「速く走るためには遅く走る必要がある」
この本でとにかく強調されているのは「(将来的に)速く走るためには遅く走る必要がある」ということである。一見矛盾しているように思える。特にトレーニング初級者の人にとっては、速く走るためには速く走ってトレーニングしなきゃいけないんじゃないの? と疑問を持つだろう。
本書では、ベーストレーニングを「その時点では無酸素エネルギーに多くを依存して行っている運動を、主に有酸素によって行えるようにすること」と定義し、その方法論として意図的に遅く走ることを挙げている。このことを、「意欲に満ちたアスリートにとって受け入れ難いもの」と筆者は認めつつも「必要なこと」と断言している。私もこの点については全くその通りだと思う。
私は、ベーストレーニングの時期に長時間ローラーを取り入れている。メニューはとっても単純で、目標パワーを設定時間の間ひたすら維持し続けるというものだ。最初はメインセット1時間半程度から始め、1週間から2週間ごとに30分ずつ時間を伸ばし、最終的にはメインセット4時間を達成できるまで続ける。4時間も一定負荷で走らなければならないので、速く走れるはずもない。初めてやる人は、180W~190Wでも滅茶苦茶しんどいと感じるはずだ。私は年に1回~2回はこのシリーズを行い、レースで優勝するなど結果を出してきた。
これに対し、「短時間高強度トレーニングの方が効率が良い」と主張する人いるかもしれない。私もその考え方を否定するつもりはない。と言うか、間違いなくその方がトレーニング効率は良い。しかし、低強度~中強度で行うトレーニングと高強度で行うトレーニングでは身体に対する生理学的な影響が違う。本書を読めば、高強度トレーニングは低強度~中強度トレーニングの代替とはなり難く、低強度~中強度トレーニングのメリットを正しく理解することができるだろう。
また、言うまでもなく高強度運動は肉体への負担が高く、特にベースが出来上がってない状態で高強度トレーニングを行うと怪我をするリスクが非常に高まる。一方で、低強度~中強度運動は筋肉や腱に対する負担が少ないのは明白であり、トレーニングの持続性が高まる。有酸素運動能力の底上げという心肺機能の側面と、筋肉や腱の身体機能の両面にメリットがあることを本書は気付かせてくれるはずだ。
まとめ
ベース・ビルディング・フォー・サイクリストについて、個人的な感想を述べた。この本の内容を一言で表すと、「急がば回れ」が一番しっくりくる。
「自転車競技をしていてパワーメーターを所持している人」で、「トレーニング基礎期についてあまりよく分かっていない人」もしくは「レースの成績が伸び悩んでいてプラトー(停滞期)を打破したい人」は、BBCを読むことをお勧めする。また、短時間高強度トレーニングの信奉者には、騙されたと思って1度読んでみて欲しい。
遅く走ることによって(将来)速く走れるようになるというのは、最初は信じられないかもしれない。基礎期のトレーニングは地味で、時間がかかり、さらには成果も見えにくい。しかし、この本のガイダンスに従って正しくベーストレーニングを実践すれば、体の変化を感じられるはずだ。本書を読んだだけで終わらせてしまったらもったいない。是非、実際のトレーニングに活かしてほしい。
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